気になる病気・症状
脊髄損傷から起きる排尿障害…排尿障害の症状、治療法とは?新治療法の臨床試験開始!?治療法はないとされていた脊髄損傷に希望の光
重度の脊髄損傷、仙椎損傷では排尿障害がみられるのが特徴で、排尿障害への治療も必須です。
●排尿障害の症状は?
脊髄損傷で起きる排尿障害は、脊髄損傷のレベルによってやや症状が異なります。
まず、頸髄や胸髄などの上の方を怪我した場合、尿が勝手に出てしまいます。トイレを我慢する筋力がなくなるので、出したくなくても勝手に尿が出ます。
一方で腰髄や仙髄などの下の方を怪我した場合、尿を出す力がなくなって、尿が出にくくなります。
●自排尿か間欠導尿か
排尿障害を治療する方法は2種類で、自排尿か間欠導尿かという選択をしなければなりません。
自排尿とは自分で排尿する方法で、例えば膀胱部分を刺激して排尿を促すといったやり方があります。
一方で間欠導尿とは、排尿するためにカテーテルを挿入する方法です。道具を使った排尿方法と考えてください。
膀胱に一定程度尿が溜まったら、カテーテルを尿道から入れて尿を外に出します。
●間欠導尿は1日5回くらい
成人の尿量は1日あたり1500ml程度で、間欠導尿は尿量が300mlを超えてから行うのが普通です。
このことから間欠導尿を選んだ場合、1日5回程度カテーテルを挿入して尿を体外に排出する必要があると言えます。
休み時間、休憩時間などに行うことが出来るので、それほど苦痛に感じる方は少ないようです。国内には1万人以上の導尿者がいます。
脊髄損傷で排尿障害がみられるときは自排尿、間欠導尿のいずれかを選ぶことになりますが、自排尿は軽度の場合のみ行われるのが大半です。
間欠導尿が難しい場合には、手術を行うこともあります。
また、排尿障害だけではなく排便障害を患う方も多く、こちらは摘便などで対処されることが多いようです。
社会生活で重要!脊髄損傷の排泄障害と自律神経症状について
脊髄損傷と聞くと一番最初に思い浮かぶのが車いすでの生活、手足に力が入らないなどの運動障害ではないでしょうか。脊髄損傷になると、運動障害だけでなく、感覚障害、排泄障害、その他の自律神経障害も併発するのです。
排泄障害
排尿
おしっこが膀胱にたまると、尿意を感じで排尿する機能の排尿反射は保たれることが多いですが、たまりきらないうちにちょろちょろでてしまったり、出しきれずに膀胱の中に尿が残ってしまう事(残尿)があります。その人の症状に合わせて排尿方法が検討されますが、自分自身で尿道に管を入れておしっこを出してあげる、導尿を日に数回行うことも多くあります。
排便
受傷して24時間から3週間程度続く、脊髄ショック期は軟便や泥状便を失禁することもありますが、数ヶ月のうちに便秘に移行します。
排泄障害対策
・トイレは居間や居室の近くに
・腸閉塞の発生に注意して薬を使用しながら便秘を防ぐ
・規則正しい排便習慣を身につける
・排便で長い時間座るときは、クッション性のある便座を使用したり、空調を調整したりなど床ずれに注意する
起立性低血圧
寝ている状態から、座位になったり、立位になったりすると、血液が麻痺をしている足など下の方に停滞してしまうので、低血圧になります。その結果、めまい、貧血の症状がでます。症状が出た時には寝た状態に戻したり、車いすでリクライニングして足を高くしてあげるなどして、頭の位置を下げてあげます。急に起きないことも大切です。
体温調節障害
麻痺した部分は発汗が難しいので、体に熱がたまってしまいます。長時間気温の高い場所にいないこと、直射日光を長時間浴びないこと、体を十分に冷やすことなどの対策が必要です。
自律神経過反射
便秘や尿が出ない状態が長く続くと、自律神経が過剰に反応した状態になり、異常な発汗、血圧の上昇、脈が弱くなる徐脈、顔面の紅潮が現れます。医師に相談して原因を解決します。
体が動かない以外にも、気をつけなければならないことがありますが、入院中に解決し、家庭復帰、社会復帰をしている方もたくさんいます。
脊髄損傷が治るかも!?脊髄損傷の新治療法の臨床試験開始!
脊髄を一度損傷すると、元には戻らず、損傷した脊髄より下の筋肉・感覚は障害されてしまいます。そんな常識をくつがえすかもしれない新治療法の臨床試験が、実際の患者に対して開始されました。
脊髄が損傷する過程
・交通事故や転落、スポーツ事故などで直接的に断裂など損傷して機能しなくなってしまいます
・その後、傷ついた神経が炎症を起こして死んでしまうため、機能しなくなってしまいます
新治療法の概要
・岡野栄之慶応大学教授とベンチャー企業である「クリングルファーマ」がグループとなって臨床実験を行います
・神経細胞の再生を促す働きのあるたんぱく質の「肝細胞増殖因子(HGF)」を投与します。「HGF」は炎症を抑える効果もあります
・対象となるのは頸髄損傷の患者で受傷から66~78時間以内であることが条件です
・患者の同意を得た上で、「HGF」か擬似薬を患部に投与します
・「HGF」は1週間ごとに5回投与され、半年後に手足の動きがどれくらい改善したかを調べます
・2016年10月までの2年間で48人のデータを集める予定です
新治療法の動物実験
・マーモセット(さるの仲間)を使った実験では、「HGF」投与後8時間で手でモノをつかめるようになるくらいまで運動機能の回復がみられました
・ラットでも正常の8割程度まで機能が改善しました
期待される理由
・年間約5000人が新たに脊髄損傷となっており、その8割以上に効果が期待されています
・投与した「HGF」ががんになる可能性が低く、簡単な方法であることです
慢性期の患者に対する新治療の検討
・受傷から2週間以上経過した患者に対して、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から神経幹細胞を作って移植することを2017年をめどに臨床実験できるように目指しています
後遺症がどれだけ減らすことができるのか、安全性はどうなのかなどが注目されます。
脊髄損傷の治療に光が!?今後は"幹細胞"での治療が可能になる?
脊髄損傷は、治療においてはなかなか進歩がない分野と言われてきました。損傷部位を元に戻せないからです。
ですが、最近になって、脊髄損傷治療への新たなアプローチとして『幹細胞』が登場しました。
●幹細胞って何?
まずは、脊髄損傷治療に今後活躍すると思われる『幹細胞』とは、自己複製機能と細胞分化能力を持っている細胞です。
自己複製機能とは、自分と同じ形・中身の細胞を作り出すことが出来る能力を指しています。
そして細胞分化能力とは、別の種類の細胞に変化できる能力のことです。
このうち、脊髄損傷とより深くかかわっているのが細胞分化能力の方で、幹細胞が壊れた脊髄神経の細胞になることで、脊髄の能力を回復させるのです。
●2014年、臨床試験がスタート!
幹細胞を使った治療の分野は、まだまだわかっていないことも多い、今後進化する分野でもあります。
2014年1月には札幌医科大学で、幹細胞を使った臨床試験のために、被験者募集が始まりました。
具体的には、幹細胞を患者の骨髄液から取って培養、薬剤にして点滴するという方法です。
●iPS細胞を使った脊髄損傷治療もあります
日本でも大きく話題となったiPS細胞は、幹細胞同様に細胞分化能力を持っている細胞で、人工の細胞なのが特徴です。
iPS細胞を使った脊髄損傷治療は、2016年以降臨床試験が行われる見込みです。
幹細胞やiPS細胞など、細胞分化能力を持つ細胞での治療がうまくいけば、治らないと思われていた足の麻痺やしびれが治り、障害程度が軽くなって生活することも夢ではありません。
現時点では、損傷した部位を元に戻すことは出来ませんのでリハビリを中心に治療が必要ですが、安全性が確認されれば、脊髄損傷治療に幹細胞やiPS細胞が積極的に使われると予測されます。
電気刺激で体の機能がよみがえる!?治療法はないとされていた脊髄損傷に希望の光
身体活動は、電気刺激によって支えられています。脳から発せられた信号は、電気の刺激となって脊髄を通り、神経を伝って筋肉に至るのです。しかし脊髄損傷を起こしてしまうと、その電気が損傷した場所より下には届かなくなります。それによって、運動機能や感覚機能に制限ができたり、消失してしまったりするのです。
電気刺激で、身体活動がよみがえる?
目覚ましく進歩している医療技術ですが、脊髄損傷などによって失われた、脊髄の伝達機能を回復させる決定的な治療はまだありません。そのため、いくつかの研究が進んでいるのですが、その中のひとつが電気刺激によって筋肉を動かし、身体機能を回復させるという治療法です。
電気刺激を与える方法
電気刺激を与える方法は、色々と研究がされていますが、硬膜外に電気刺激の装置を埋め込むという方法や、脊髄に直接電気刺激を与える方法など様々あります。
実験ではこれらの方法によって、全く自分の意思で体を動かせなかった被験者が、自分の意思で体を動かせると言った結果が報告されています。被験者の中には運動・知覚が完全に麻痺しており、回復の見込みはないと診断されていた患者もいたそうです。
電気刺激で体を動かすのにもトレーニングが必要
実験では、装置の助けを借りて体を動かすことにおいて、ある程度慣れる必要があるとされています。そのトレーニングを行うことで、動作を促すのに必要な感覚を知っていき、それに伴って神経回路が改善し、体がより良い伝達ルートを構築していくと考えられます。つまり、体が元の状態を取り戻したということよりも、元の健康な状態とは違う方法を、再取得したと言えます。
電気刺激を受けることによって、運動機能や感覚機能だけでなく、膀胱の機能、超の機能、生殖器の機能、発汗機能などの改善も見られたそうです。まだ実用化というレベルではありませんが、これまで「治療方法はない」とされていた骨髄損傷の治療に、新しい光がさしたと言えるかもしれません。
(Photo by: [http://pixabay.com/static/uploads/photo/2013/02/18/18/35/basins-83090_640.jpg])
著者: カラダノート編集部