介護・認知症
認知症やアルツハイマー病に効果的な治療薬とは?副作用や注意点は?
アルツハイマー治療薬のひとつに「メマリー」という薬があります。これは従来薬である『アリセプト』や『レミニール』など賦活系の薬と異なり、鎮静系の作用を示すものです。脳の神経細胞を傷害してしまうグルタミン酸の過剰放出を抑制し、神経細胞を保護する効果があります。実際の効果や副作用とはどのようなものでしょうか?
メマリーは、神経細胞を傷害から守る
メマリーは、NMDA受容体(普段は活性化されないが、記憶形成時やアルツハイマー病では活性化される)への刺激を調整する作用があります。
記憶の形成時、神経細胞の隙間にはグルタミン酸という興奮性物質が上昇します。通常はやがて減少するため問題は起こりませんが、アルツハイマー病では持続的にグルタミン酸が溜まった状態となり、神経細胞が刺激でもたなくなり壊れてしまいます。
メマリーは、記憶形成のときは興奮性シグナルを通し、アルツハイマー病のときはシグナルをブロックするという臨機応変な働きをしてくれます。これによって、神経細胞を傷害から守ります。
<適応は?>
中等度~高度アルツハイマー型認知症の進行抑制(軽度の症例に使用すると、高率に頭痛が起こる。)
<副作用は?>
国内での治験結果(1,115例)では、以下が報告されています。
■一般的な副作用
頭痛、肝機能異常、血圧上昇、血糖値上昇、転倒、浮腫など(いずれも1~5%未満の頻度)
■重篤な副作用
けいれん:0.3%、精神症状の悪化(頻度不明)など
実際の臨床における使用感は?
数名の精神科医の見解によれば、メマリーの効果について以下と述べられています。
■基本的な性質
・メマリーは性格が穏やかになり不眠も改善する鎮静系である。
・フェルガードに似ている(ただ、効果の桁が違う)。
■処方について
・10人中半数は効果がないか悪化(=興奮)する。
・日本人では、服用量を減らすと症状が良くなるケースが多い(一般量より減量したほうが日本人には合う。5mg程度など)。
・認知症のBPSD(特有の諸症状)にはメマリーは適切である。
■代謝
・ほとんど代謝を受けず、投与量の57~82%は未変化のまま腎排泄される。
■副作用
・極端に頻度の高い副作用はあまりない。
・中毒疹(アレルギー反応)の発生は稀である(1%未満)。
最後に
メマリーは前述のように鎮静系の薬であり、興奮性の認知症の諸症状にはとても良くあっていると言います。他の薬と眠剤を併用していたのが、1剤のみで済むようになる場合もあるとのことから、該当症状がある場合一度主治医に相談してみると良いかもしれません。
アルツハイマー病の付随疾患「BPSD」に有効、「メマリーと抑肝散」
認知症の中で最もイメージしやすい症状(=中核症状)は「記憶障害・高次機能障害による失認・失語」ですが、その他にもBPSD症状(=周辺症状:以前の名称は「問題行動」)が付随する場合があります。
BPSDとは、「暴力・徘徊・拒絶・不潔」などの行動障害や、「抑うつ・幻覚・妄想・焦燥」などの心理障害を総括した付随疾患のことを指します。
この発症原因としては、遺伝やその他器質・心因的なものなど複合的な要素が挙げられますが、その中のひとつの原因として10年ほど前から「グルタミン酸による興奮毒性」が注目されています。
グルタミン酸を抑える薬である「メマリー」は、BPSDに対してどれほどの効果を示すのでしょうか?
アルツハイマー病の「グルタミン酸毒性」はメマリーで抑えられる?
アルツハイマー病(AD)の病態としては、「脳への異常蛋白の沈着」の他にも、神経伝達物質全般の不均衡が見られます。
<ADは、神経伝達物質濃度が不均衡になっている>
■アセチルコリンの神経細胞数・合成酵素活性の低下
■ドパミン/ノルアドレナリン/セロトニンの神経細胞数・濃度の低下
■グルタミン酸の細胞外濃度の増加
この中のひとつ、「グルタミン酸濃度の過剰」はBPSDの興奮・攻撃性にかかわるとして、治療対象とされてます。
<グルタミン酸濃度が上がると、過剰興奮に繋がってしまう>
受容体付近のグルタミン酸濃度が上がると、過剰に受容体を刺激してしまい、Caイオンの過剰な取り込みから「脱分極」を起こして、神経細胞死や過剰興奮に繋がると考えられています。
グルタミン酸受容体阻害薬であるメマリーは、過剰な信号のときのみ受容体をブロックし、それらの興奮毒性を抑えると考えられています。
臨床試験の結果は?
■メマリーとイセクロンパッチはBPSDの改善に高い有効性を示す(PMID: 24164733 )
<試験内容>
177人のBPSD患者に1年間、4種類の薬(メマリー/アリセプト/イセクロンパッチ/レミニール)の投与を行った。評価は、NPIとBEHAVE-AD(精神症状評価ツール)で行った。
<結果>
・興奮・攻撃性は、メマリーとイセクロンパッチで著しく改善。
・不安・恐怖は、イセクロンパッチで著しく改善。
・2剤共に、軽度~中程度のBPSD患者に有効で、問題となる副作用はなかった(一過性の軽度~中等度の症状のみであった)。
最後に
但し、メマリーには「ドパミン賦活」作用もあるため、返って興奮が悪化する場合があるとされています。このような場合にはセロトニンによる鎮静効果のある「抑肝散」が代用薬となるかもしれません。
胃薬「セルベックス」がアルツハイマー病の治療薬となりうる可能性?アミロイドβ分解酵素を発現
アルツハイマー病の発症原因のひとつとして、「アミロイドβ」という蛋白質が関与していることが知られています。
アミロイドβ蛋白は、脳内に蓄積して神経変性を起こし認知機能を低下させる作用があり、治療のためにはこの物質の産生低下、もしくは分解酵素の増加が必要と考えられていました。
近年の研究で、ストレスや熱刺激を受けた際に産生される「熱ショック蛋白(HSP70)」に神経保護効果があることが明らかにされていましたが、さらに新たな研究では、胃薬として用いられている「セルベックス」にアミロイドβの発現低下作用があることが報告されています。
熱ショックタンパクとセルベックスの効果
熱ショックタンパク(HSP70)とは、細胞に備わる防御・再生機構で、体温上昇により発現増加することが分かっています。
HSP70の働きは、主にストレスによる障害から細胞を防護・修復し、タンパク質の凝集を抑制して高次構造を保ち(リフォールディング:再折りたたみ)、さらにアポトーシスから細胞を保護して生存率を向上させる働きなどがあることが知られています。
近年の研究ではHSP70と中枢神経疾患についても研究が進んでおり、アミロイドβ分解酵素の発現増加やサイトカインTGF-β1を産生促進し、それによるミクログリアとアストロサイトの活性化・アミロイドβ会食能を促進させることが明らかになっています。
■熱ショックタンパクによる神経細胞への影響
・アミロイドβ分解酵素の発現増加
・サイトカインTGF-βの産生促進
・神経細胞のアミロイドβ会食能の促進
また、胃粘膜障害の治療薬であるセルベックス(主成分:ゲラニルゲラニルアセトン(GGA))に関しては、HSP誘導効果を持つことが報告されており、その作用機序は以下と考えられています。
・GGAがHsp70のC末端に結合し、シャペロン活性を不活性化させ、その結果熱ショック転写因子の活性化がHsp70を誘導する。
セルベックスを認知症モデルマウスに投与した実験結果
■マウスへのセルベックス投与で、アミロイドβ沈着が減少したという実験
<実験内容>
熱ショックタンパク誘導剤であるセルベックス(ゲラニルゲラニルアセトン:GGA)を認知症モデルマウス(APP23)に長期投与し、アルツハイマー病進行に対する効果を検討した。
<結果>
・GGA投与により、脳内のアミロイドβ量、アミロイド班が減少した。
・GGA投与により、変異型APP過剰発現による神経細胞やシナプスの減少も抑制された。
・GGA投与により、アミロイドβ代謝酵素やTGF-β1の発現を亢進した。
・一方でGGAを投与した後、アミロイドβを脳内投与すると、熱ショックタンパク(HSP70)の発現が亢進した。
⇒これらの結果は、GGAが熱ショックタンパク誘導を介して、アミロイドβ凝集を抑制、代謝亢進することによる認知機能改善効果が示唆された。
このように、マウス実験の段階ではあるようですが、セルベックス投与から熱ショックタンパクを誘導し、アルツハイマー病を抑制するという試みが行われているようです。
ただ他の海外研究によれば、多発性硬化症やギランバレー症候群、CIDPなどの末梢神経障害は熱ショックタンパクが抗原性を増強するという報告があり、セルベックス服用によって症状が悪化する可能性があるため、注意したいところです。
先端認知症治療薬として期待される抗血小板薬『シロスタゾール』
『シスタゾール』は蓄積する脳の老廃物を排出する?
近年、国立循環器病研究センターによって報告された内容によると、アルツハイマー型認知症の治療薬として、脳梗塞再発予防に用いられる抗血小板薬の『シロスタゾール』が有効であることが明らかにされています。
日本の認知症患者数は2025年には470万人になる見込みとされており、今後も高齢化が進んでいくことから、その根本治療が求められていました。
『シスタゾール』は、血栓形成を抑制すると共に、血管を拡張させ脳血流を上昇させ、さらにはマウスの実験によって脳に蓄積する老廃物の排泄を促進する作用があることも確認されています。
今後この治療薬が認知症治療の先端を担う薬として期待されています。以下ではその詳細について見て行きたいと思います。
アルツハイマー病が発症する原因とは?
アルツハイマー病の発症原因とされているのは、現在では大脳皮質の神経細胞に沈着する『リン酸タウ蛋白』や『アミロイドβ蛋白』によるものであり、末期には神経細胞が広汎に脱落し脳萎縮をきたす疾患であるということが分かっていますが、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(アセチルコリン増加作用)である『ドネペジル』の発売以来有効な治療法は確立されていません。
脳内アミロイドβ蛋白の蓄積には、遺伝因子や環境因子、生活様式など多数の因子が関与しており、特に解析の必要がある遺伝子因子の特定や影響の評価を行うことは困難とされていましたが、近年大阪大学の森原教授による研究によると、マウスに対する実験で『Klc1』という遺伝子が脳内アミロイドβ蓄積量を制御していることが明らかになっています。
シロスタゾールとは?
『シロスタゾール』は、元来脳梗塞の治療薬であり、血小板凝集の抑制作用があります。認知症の治療薬としての作用機序とは、脳細胞におけるcAMP応答配列蛋白(CREB:空間認知など、脳の高次機能において重要な働きを持つ、リン酸化されることで活性化する)のリン酸化を亢進し、認知機能の改善する効果があると見られています。
シロスタゾールを用いた認知症患者への臨床試験とは?
認知症治療薬『ドネペジル』を服用している洲本伊月病院の患者を対象に、シロスタゾール内服者と非内服者年間の認知機能低下率を【ミニメンタルステート検査(MMSE)】が行われました。
伊月病院における『シロスタゾール』内服者、非内服者比較試験
<対象>
認知症治療薬『ドネペジル』服用患者156名
<試験内容>
『ドネペジル単独服用』の患者87名と、『ドネペジル+シロスタゾール併用服用』の患者69名の認知機能評価(MMSE)を、1年間以上の間隔で2回以上行う比較試験。
<結果>
まず、効果が見られたのは軽度認知症(MMSEスコア:22~26点以下)患者に限り、より進行した認知症患者には効果が見られなかったとされている。(軽度患者:ドネペジル単独投服用者36/87名、ドネペジル+シロスタゾール併用服用者34/69名
<MMSEスコアの変化値>
◇ドネペジル単独服用患者36名・・・2点以上の低下
◇ドネペジル+シロスタゾール併用服用患者34名・・・0.5点(年間低下率80%抑制とされる)。
⇒詳細としては、以下の3項目において併用郡に有効性が見られる。
時間の見当識(単独群-0.9/併用群-0.2)、場所の見当識(単独群-0.3/併用群+0.1)、遅延再生(単独群-0.3/併用群+0.1)
最後に
シロスタゾールの臨床試験は、平成26年度中に国立循環器病研究センターが中心となり開始される予定であるとされています。新たな認知症治療薬として承認されることを期待したいと思います。
認知症治療薬アリセプトの併用注意薬
アリセプトは認知症治療薬の中でも有効率が高く現在でも広く使用されている薬ですが、併用注意の薬が多くありますので使用には注意が必要です。
・筋弛緩薬のレラキシン
スキサメトニウム塩化物はアセチルコリンエステラーゼによって分解されますので、アリセプトの分解阻害作用によってレラキシンの脱分極性筋弛緩作用が増強されて呼吸抑制などの重篤な症状が表れることがあります。
・イトリゾール、エリスロシン、キニジンなどのCYP3A4で代謝される薬
アリセプトは体内のCYP3A4という酵素によって代謝されますが、これらの薬もCYP3A4によって代謝されますので、同時に服用すると代謝拮抗作用を示すことになりアリセプトの作用が増強されることがあります。
・テグレトール、アレビアチン、フェノバールなどのCYP3A4誘導薬
これらの薬によってCYP3A4の働きが増強しますとアリセプトの代謝効率があがり、アリセプトの効果が弱まることがあります。
他にもアリセプトの効果を増強させるものとしてベサコリンなどのコリン賦活薬やウブレチドなどのコリンエステラーゼ阻害薬、減弱させるものとしてアーテンやブスコパンなどの抗コリン薬があります。
(photoby:pixabay)
著者: カラダノート編集部