ガン・悪性腫瘍
ガン患者へのマッサージ~進行性がんの疼痛を和らげる「緩和医療」~
多くのガン治療は人体に対して強烈な影響を与えるので、それに伴って副作用も強く出ることがあります。
そのような症状を緩和する目的で“オンコロジー・マッサージ(腫瘍学に基づいたマッサージ)”が注目を浴びています。
マッサージでガンは拡がらない?
ガン患者にマッサージを行うとガンが拡がってしまう、と考えられている方がいます。マッサージによって血流やリンパの流れが良くなり、ガンが運ばれていくのではないかと推測されていたためです。
しかし現在の新たな調査によると、オンコロジー・マッサージトレーニング(腫瘍学に基づいたマッサージトレーニング)と多くの臨床経験を積むことによって、ガン患者へのマッサージのリスクは軽減され、効果も高まることが分かってきました。
マッサージの効果
マッサージによってガンそのものの治療を行うことはできませんが、ガンによって起きる肉体的・精神的な症状を緩和することができます。
また、マッサージは化学療法や放射線療法の副作用、手術後の疼痛や吐き気、筋肉や関節の痛み・だるさ、不安や抑うつ状態といった症状も軽減することができます。
最適なマッサージを
The American Cancer Societyは、“マッサージはガン患者に手技を施すための特別なトレーニングを受けた人のみ行って良い”としています。
これは、患者の症状への適応や禁忌、手技内容や時間、期間、骨への転移や皮膚反応といったことに注意して、より安全にマッサージを行うためです。 ガン患者へのマッサージによる身体的触れ合いは、術者と患者の間に絆を作る手助けになります。
家族や友人がマッサージを行うことによって患者が心理的に強くなり、リラックスすることもできます。心身共に良くなるマッサージは強く推奨されています。
化学療法による身体的苦痛と心理的苦痛とは?がん治療について
化学療法を受けている患者さんはどのような苦痛を感じているのでしょうか?
主な身体的苦痛
化学療法を受けると
・食欲不振や嘔吐
・倦怠感
・口腔内の問題(口の中が荒れたり、食べ物の味が変わる)
・手足のしびれ
このような苦痛が生じます。
つまり、がんそのものの苦痛に加えて抗がん剤の副作用が多くなります。
これらは適切な薬剤を使用することで比較的抑えることができます。
最大の苦痛は心理的な問題
化学療法中の患者さんの訴えで最も多いのが「漠然とした不安」です。
化学療法中に限らず、がん患者さんは精神的な苦痛が大きいです。
ある調査によると53%の患者さんが落ち込みや不安や恐怖などの精神的な悩みを持っているという報告もされており、この数値は身体的苦痛によるものを上回っています。
精神的苦痛への対処は医師よりも看護師の役割になることが多く、患者さんに最も近い存在である看護師の精神的なサポートが重要になります。
しかし、看護師に任せっきりにせずに様々な業種の医療者がチームで患者さんを支えなければなりません。
患者さんだけではなく家族や周りの人に対するケアも必要になってきます。
患者さんの治療効果や生活の質を向上させるためにも精神的な問題は第一に解決されるべきですね。
緩和治療ってなに?がん患者の症状のコントロールと生活の向上
手術・放射線・薬物による3本柱の治療に最近は緩和治療を加えることが多くなってきています。
症状のコントロールと生活の向上
医療には治癒を目的とした医療と諸症状のコントロールや患者のできる限り質の高い日常生活の維持を目的とした医療があり、後者を緩和医療といいます。
ちなみにこの場合の諸症状には身体的な症状だけではなく心理的・社会的な苦痛も含まれます。
末期患者だけが対象ではない
緩和医療に含まれるものは疼痛その他の身体症状に対する薬物療法、緩和的化学療法、放射線療法、栄養管理、リハビリテーションなどが含まれます。
がんの治療における緩和医療は少し前まで治癒の望めない末期がん患者のためのものと考えられていました。
しかし、最近ではその考えが変わってきています。
治癒可能かどうかに関わらず生命を脅かす疾患、つまり重篤な疾患によって生じる苦痛はすべて緩和医療の対象になると考えられるようになりました。
これまではがんの苦痛を和らげる方法を指す言葉として支持療法と緩和療法の2種類が使われていました。
前者は治癒可能な人が、後者は治癒が望めない人がそれぞれ対象になっていましたが、治癒するかどうかで線引きをするのはおかしいという考えから両者を使い分けずに緩和支持療法と呼ぶ流れもあります。
ガンの緩和ケアを受けるタイミングはいつがいいの?
ガンの治療は腫瘍を取り除いてガンという病気を完治させるだけではありません。
ガンの発病とともに起きるさまざまな問題を総合的に解決していくのが現在のガン治療の主流です。
そのひとつが精神的、社会的、医学的な面を持つ緩和ケアです。
●緩和ケアはガン治療と同時にスタート
緩和ケアは早いうちから行うべき、という点は世界保健機関でも厚労省でも見解が一致しています。
ベストなのは緩和ケアをガン治療のスタート時から行うことです。スタートの時点で、すでに精神的苦痛や社会的不安を抱える患者が多いからです。
ガンを告知されることを想像するとわかりやすいですが、これからの生活が不安になったり、会社を辞めなければならないのではないかと考えたりしますよね。
このような精神的・社会的圧迫に対処するためにも緩和ケアはガン治療と同時スタートがよいのです。
●緩和ケアはチーム体制
緩和ケアを受けるとは言ってもどのような形で受けるのか想像がつかない方もいるかもしれません。
緩和ケアは患者やその家族を中心としたチーム体制で行われており、医学的な緩和ケアでは看護師や医師が活躍します。
ガンを治療するチームでもある医学的緩和ケアチームは、治療による副作用からの痛み、治療中の身体的な痛みなどを中心にケアします。
一方で社会的な苦痛(会社を退職したり、再就職への問題など)をケアするのはソーシャルワーカーです。ガン治療で言えば医療ソーシャルワーカーがプロです。
そして精神的な苦痛(死への恐怖や治療のストレス)をケアするのはカウンセラー、精神科医などが中心のチームです。
緩和ケアを受けるタイミングは『精神的、社会的、医学的に緩和するべき痛みが生じた時』で、多くの人にとってはガン治療スタートと同時に緩和ケアのことも考えた方が良いです。
ガンを告知される、ガンの治療をスタートする時点ですでにストレスや社会的不安、苦痛が存在すると考えられるからです。
進行性がんの疼痛を和らげる「緩和医療」
がんが進行すればするほど緩和医療の役割は重要度を増します。
身体的苦痛の代表は疼痛
進行性がんの患者さんは疼痛のほかうつ、不安、睡眠障害、食欲不振など様々な苦痛に悩まされますが、身体的苦痛の中で最もマネジメントを必要とするのは疼痛です。
主に腫瘍の骨や軟部組織への浸潤・転移、神経の圧迫・損傷などで起きますが、筋攣縮や手術などが原因になることもあります。
疼痛緩和に用いる薬剤
疼痛緩和に用いられる薬は「オピオイド系」「非オピオイド系」に大別されます。
モルヒネを代表とするオピオイド系鎮痛薬のほうが鎮痛効果は高いですが、痛みの強さに合わせて段階的に強めていく方法が推奨されています。
また、疼痛治療も抗がん剤を使った化学療法と同様、作用機序の異なる薬剤を使用することで相乗効果を得られますので、非ステロイド性抗炎症薬や鎮痛補助薬を痛みに合わせて併用するのが基本になります。
最新情報の入手法
疼痛はもとより、がん患者さんを苦しめる様々な症状に対して米国国立がん研究所が、がん情報データベースの上で細かく治療法や対処法を紹介しています。
これらはインターネットでアクセスすることで簡単に読むことができますので、最先端のスタンダードな方法について情報を自分で調べて持っておくのもいいでしょう。
家族が心配な方へ 病院の緩和ケア病棟ではどんな過ごし方をするのか見てみましょう
緩和ケアを受ける場所のひとつが病院にある緩和ケア病棟というもので、緩和ケア病棟、緩和ケア科は厚労省によって定められています。
都道府県別の緩和ケア病棟を紹介しているサイトなどもありますので参考にしてみてください。
●緩和ケア病棟は細やかな個別対応が多い
緩和ケア病棟を持つ病院のサイトなどを見てみると、個別の問題にしっかり向き合うことを目標としている病院が多いことがわかります。
例えばがん・感染症センター都立駒込病院などの場合には『病気の進行によって生じるからだのつらさとこころのつらさを和らげる』を緩和ケア病棟の基本としています。
個々人の心、体、社会生活における問題解決という緩和ケアの基本に立ち返ると、ひとりひとりの抱える悩みや問題に細やかな対応が求められます。
そのため、一般的な医療病棟に比べると生活全体を支える雰囲気がより感じられる病棟とも言えるでしょう。
●どちらかといえば自由な生活
緩和ケア病棟に入っても治療の内容によっては生活の制限、食事の制限は当然あります。
特にそういったものがないときは自由に過ごすことが出来ますし、面会時間に一般病棟ほどの制限がない緩和ケア病棟も多いです。
医療体制および社会生活を整える体制の整った施設でありながら、家のような雰囲気も持っているのが緩和ケア病棟らしい特徴です。
1日の過ごし方はそれぞれに任せられているケースが多くみられるので、出来る範囲で自分の好きなことをしたり、家族や友達と話したりといった暮らしとなります。
もちろん緩和ケア病棟として精神的ケア、社会的ケアなどはしっかりと受けられます。
緩和ケア病棟は、生活全体を支えるために細やかに対応してくれるタイプの病棟です。
日々の生活については、治療内容によっては自由が利かない部分もありますが基本的には本人の自主性に任せるとする病院が多いです。
緩和ケアは末期ガン患者のもの…?いいえ!違います
ガンで緩和ケアを受けることになった、というと末期ガンでホスピスに入るイメージなどがある方もいるようです。
ですが、緩和ケアは実は初期の段階から必要とされているのです。
●WHO、厚労省の緩和ケア定義と推進
日本国内でもその指標や推進計画などが評価され、厚労省の定める健康推進とも深いかかわりがあるのがWHOの定義や取決めなどです。
WHOは2002年に緩和ケアの定義を行いました。その内容は簡単に言えば『早いうちから命に係わる病気の患者・家族の苦しみを予防・緩和することで生活の質をあげる』ということです。
つまりガンのような命に係わる病気になったとき、末期・初期に関わらず生活の質が脅かされている場合には緩和ケアを積極的に考えるべきということです。
厚労省も『がん対策推進基本計画』において緩和ケアを治療の初期段階から実施すると位置づけています。
●4つの苦痛に向き合う
緩和ケアを必要とするようなトータルペイン(全人的な苦痛)は以下の4種類の背景がかかわっていると言えます。
1. 身体的苦痛…投薬の副作用による痛み、病気の痛みなど
2. 精神的苦痛…不安やいらだち、うつなど
3. 社会的苦痛…仕事、経済、家族関係など
4. スピリチュアル的苦痛…死の恐怖、価値観など
医療関係者はこれらの苦痛に対して適切な対処を求められます。
ガンの専門病院などではソーシャルワーカー(社会的苦痛を取るプロ)、心療内科的要素(精神的苦痛を取るプロ)が配置されることもあり、患者を総合的に支えるシステム作りが進められています。
緩和ケアは終末期医療のひとつではなく、ガンのような生命を脅かす病気にかかった患者やその家族が初期から受けることのできるケア体制です。
病気の進行と治療から起きるさまざまな苦痛を早めに取り除く必要があります。
(Photo by: http://www.ashinari.com/)
著者: カラダノート編集部